出会いうるものたちのさけび

シンガーソングライター 松井文

    
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シンガーソングライター 松井文

かめ「音楽を始めて何年になりますか?」

松井さん「人前でやりはじめてからは……高1か2ぐらいだから、15,6年ですね、たぶん。」

かめ「どうして始めたんでしょう?」

松井さん「もともとギターは弾いてて、で、音楽系の高校に入って。」

かめ「じゃあ中学生とかそのぐらいから音楽やりたいと思っていた?」

松井さん「うーん、音楽やりたいっていうよりも、学校がもともとそんなに好きではなかったので。なんかおんなじ場所に毎日行くっていうのが嫌いだったんですよね。」

かめ「みんな行きたくないと思ってても、それを露わにできるひとっていうのはそう多くはないですよね。」

松井さん「飽きない感じの場所に行きたくて。その高校が、ちょっと特殊な高等専修学校なんだけど、単位制で芸術系のこともできるみたいな。」

かめ「じゃあ3年じゃなかったってことですか?」

松井さん「いや、3年なんですけどね。技術系の高等専修とは違うんですよね。午前中に中学生レベルの勉強をして、午後は自由選択。」

かめ「それで音楽を選んでいたと。」

松井さん「そうですね、そこから本格的に始めたって感じですね。」

かめ「音楽の授業は楽しかった?」

松井さん「楽しかったですよ。ギターの授業とかベースの授業とかもあるんですけど、そのときのベースの授業の先生が、いま一緒にやってる種石さん。」

かめ「授業の内容は、弾き方を教わるような?」

松井さん「そうですね。コード譜みたいなのを渡されて。」

かめ「作曲とかも?」

松井さん「作曲の授業もあったと思いますけど、そんなちゃんとしたものではなかったかな。」

かめ「そういう高校があるんですね。」

松井さん「そうですね。音楽高校ともまた違う、高円寺のバンドマンたちが教えてるような学校だった(笑)」

かめ「そんな布陣で!(笑)」

松井さん「すごいっすよね。」

かめ「その学校は自分で探して見つけたんですか?」

松井さん「なんか中学の友達がこういうとこがあるよって教えてくれたんですよね。」

かめ「そうですか。そしてそのなかでバンドを組んで……?」

松井さん「そうです。」

かめ「そして閃光ライオットに行く?」

松井さん「そうそうそう、懐かしい。」

かめ「僕も高校生ぐらいのときには、なんとなく横目に見てましたよね。」

松井さん「その世代のひとだと知ってるよね。」

かめ「それで上位に行ったんでしたよね。」

松井さん「そう、本選に出られたんだよね。10組ぐらいのなかのひとつで。」

かめ「そのときのバンドの経験っていうのはいまどういうふうに活きているんでしょう?」

松井さん「どうなんでしょうね。でもそのときから私はずっと音楽やりたかったんで。辞めるとかはまったく考えたことなかった。大会に出てなくても。」

かめ「それは音楽そのものが好きっていうことですか?たとえば音楽であればなんでもいいってひともいれば、ギター弾いてるのが好きとか、歌うのが好きとかっていうこともある。いろんなパターンがありますよね。どういう好きの分類だったというか……。」

松井さん「ん~、なんでしょうね。でもライブをたくさんやるとかよりも、いい曲を作りたいって感じですね。そのモチベーションでやってるかもしれないです。」

かめ「その曲っていうのは誰かに見せる必要はなくて、自分のなかでできあがっていくことに喜びがあるんですかね?」

松井さん「いや、誰かにやっぱ聞いてほしいっすけどね(笑)。いい曲できたから。」

かめ「子どもが絵を描いて、親に見せるみたいな?」

松井さん「そうそうそう、そのままの感じです。」

かめ「そうすると逆に、いい曲を作ることに対する切迫感もあったりする?」

松井さん「そうですね。それがめちゃくちゃ今はとくにありますね。新しい曲ができてないのにライブしにいけないみたいな気持ちがありますね。」

かめ「なるほど。同じ曲を歌いつづけるって、どう思ってるんでしょう?お客さんからは知ってるアレンジ知ってる歌を求められるけど、何年か経つとそのときの気持ちとか歌詞とかって、気持ちが変わっちゃうから歌いづらくなるってことはあるんだろうなぁ、と。でも歌いつづけなきゃいけない、みたいなこともあるし。」

松井さん「まぁ、飽きることはすごくあるじゃないですか、ひとだったら。同じアレンジだと飽きるみたいな。でもファンの目線で言うと、その曲をやっぱり聞きたいじゃないですか、古い曲もね、ヒット曲を。その気持ちもわかるから。私はどっちもやりますけど。聞きたいって言われたらもちろん喜んでやるし。」

かめ「たとえば歌詞とかで、もう恥ずかしくて、こんな気持ちもうないよ!みたいなことってあるんじゃないかなって思ってるんですけど(笑)」

松井さん「ありますね。でもまたそれが変わったりも。何年か経って、歌わなくなってから、また変わったりもするし。逆に昔の方が素直な曲が多くていいなとか思ったりするし。」

かめ「そのときそのときのなにかが刻みこまれた曲たちだってことですかね。」

松井さん「ですね。まぁまったく昔の曲やらないひととかもいるみたいですもんね。甲本ヒロトとか。新しいアルバムの曲しかやんない、みたいな。」

かめ「こういうときに曲ができるっていう傾向がないっていうことでしょうか?」

松井さん「ん~、でもやっぱ、ひとと出会って別れてみたいなところとか。ひとと喋ってて、みたいなのが多いっすね。」

かめ「たとえば『昔ばなし』っていう曲なんかはどういうふうにできたんですか?」

松井さん「『昔ばなし』はほんとになんか、海外に行ったときの、親戚のおじさんがニューカレドニアに住んでて、そのときの景色を歌っただけなんですけど。」

かめ「え?そうなんですか?日本じゃないんですね。」

松井さん「そう。違うんすよ。海外の海で焚火をしてもらって、で、その親戚のおじさんの話がめちゃくちゃうざかったっていう……(笑)」

かめ「え?うざかった昔ばなしの話なんですか?あれ???」

松井さん「そうそう。それをいい話っぽく歌ってるだけで。」

かめ「てっきりすごくいい曲だから、すごくいい話を聞いたのかと思ってましたけど……。それって武勇伝的なうざさですか?」

松井さん「なんか、ビートルズのここがすごいとか、この曲がすごいとか。」

かめ「あ~。それはちょっとうざいっすね……(笑)。ちょっと初歩的な質問になりますけど、好きなミュージシャンってどんなひとたちですか?」

松井さん「好きなミュージシャンは高田渡とか浅川マキとか忌野清志郎とか。」

かめ「それは高校生ぐらいのときから?」

松井さん「そうですね。わりとそのぐらいのときから。」

かめ「きっかけは?」

松井さん「もともと銀杏BOYZが好きで、その峯田くんがいろいろ紹介してるじゃないっすかブログで。いろんなバンドとか。そのなかでいろいろ聞いてたんですけど、いろいろ紹介してる音楽を。そのなかでも、フォークの方がハマったっていう。」

かめ「フォークってだんだんメンタリティの部分が出てくるじゃないですか。高田渡はこうだけど、吉田拓郎はああだとか。そういう点で、松井さんはどういうことを考えてるんですかね。」

松井さん「よくフォーク好きですっていうと、吉田拓郎とか?みたいなこと言われるじゃないですか。で、吉田拓郎がそんなに自分にヒットしなかったのはなんなんだろうって考えるんですけど……。フォークより音楽的に、ポップスというか、歌謡曲っぽいじゃないっすか。詞の内容は日常のことなんだけど……。なんですかね。それはなんて言ったらいいのかわからない、どう違うのかは。歌い方とか声とかもあるかもしれないけどね。」

かめ「精神性の部分は?」

松井さん「ん~。でも自分の歌はべつに世間のこととかを書いてるような気もしない。」

かめ「じゃあテーマありきでは書かないってことですかね。」

松井さん「あ、そうですね。テーマみたいなのはほとんどないっすね。なんか、書いてたらできた、みたいなことの方が多いから。こういう曲にしようとか思って書くことはほとんどないです。」

かめ「じゃあ曲と詞が一緒に出てくるというか。」

松井さん「そうですね、一緒に考えてます。まぁ、こういう曲作ってくださいみたいなの頼まれたらそうできるけど、自分のなかにそういうのはないかも。」

かめ「なるほど。去年はけっこういろんな土地に行ってましたけど、それは行きたいな~と思ったから行った?」

松井さん「そうそう、まぁそうです(笑)いや、なんか、まぁコロナがあってっていうのもデカいと思いますけど。曲を溜めてたけど、売りに行く場所とか、発表する、聞いてもらうところが少ないなと思って。東京にいるだけじゃね。」

かめ「コロナの期間はどういうふうに過ごしていたんですか?」

松井さん「カセットも作ったし、7インチも作ったし。売るものはいっぱい溜まってきてた。やらせてもらえるところではやってたし。」

かめ「去年はたとえば四国とかにも行ってましたけど、会場はどういう経緯でブッキングしたんですか?」

松井さん「それは京都のひとが高知のお店を紹介してくれて、そこはもともと名前は知ってるお店で。AZUMIさんとか、みんなよく出てたお店だったんで、そこ行きたいなぁみたいな話になって、じゃあ行こうやって。どこもそんな感じですね。高知のひとが松山のイベンターみたいなひとを紹介してくれたり。なんか、ツアーに出れば出るほどみんないろいろ紹介してくれるから、それでやれる、みたいな。それに、出てれば、気軽に呼んでもいいんだっていうふうに思ってくれるから。」

かめ「今年はどういうスタンスで?」

松井さん「今年はねぇ、とくに決まってないっす(苦笑)でも、まえもそもそも呼ばれたところに行く、みたいな感じで。自主的にツアーを組んだりとかしてなかったけど。でも今年は曲をもっと作りたいんで。やっぱり、ツアーに出るために。新しい曲を作って録音したりしたいなぁと思ってますけど。」

かめ「バンドとソロではやっぱり楽しさが違う?」

松井さん「そうですね。まぁひとりでやるのも好きですけど。自由だから。他人(※松井文と他人。松井文のバンドのこと。)は他人でホーンが入って豪華な感じになるんで、楽しい。」

かめ「アレンジはみんなで決める?」

松井さん「そうですね。でもなんとなく、こういう曲で、みたいな話はするけど。ここを豪華にしたい、とか。でもホーンアレンジとかはふたりにお願いして、書いてもらって。」

かめ「『NOT MY DAY』のイントロとかすごくいいですよね。」

松井さん「あれはもともとアラン・トゥーサンっていうニューオリンズ・ピアノのひとの曲があって、それっぽくしてほしいっていうのをみんなに言って。」

かめ「バンドで再録はしないですか?」

松井さん「いや~、したいですよね。バンドでアレンジが変わったな~みたいな曲はもう一回録りたいなと思ってます。ライブ盤も出したいんですよね。」

かめ「ぜひ聞きたいです!松井さんのお客さんで西興部に行くってもう言ってくださってる方がいたのはびっくりしたし、うれしかったです。」

松井さん「昨日もゴールデン街で西興部のイベントの話をしたら、みんなめっちゃ行きたいみたいなこと言いだしましたよ。ライブフリークのひととかはとくに、どうやって行くかまでもう考えてる、みたいな。バイク借りて行こうかなみたいな。」

かめ「それはほんとにありがたいですね。そういうゴールデン街で、っていうひとたちにほんとに来てほしいですね。でもそのなかでチケット代をどう設定するかって問題はやっぱりあって、村の物価に合わせるかイベントの価値を金額に換算するか……。そういうときに、ミュージシャンの単純に個人事業主としての収支計算はどうなってるのかなって、気になりますね。」

松井さん「なんか昨日もそういう話してて……。ライブハウス関係の方が来て言ってたのは、ある有名なミュージシャンが30万で来てくれって言われたときに、そんないらんわ!って(笑)それからホテルもいらない、ネットカフェでいいって。」

かめ「でもそれは主催側からは言えないっすね(苦笑)」

松井さん「むしろホテルが嫌いらしくて、そのかわりおいしいもの食べさしてくれって。そんな感じで、もらえたらうれしいけど、交通費とか宿泊があればもちろんありがたいっすけど、それよりも行ったことのないところに行ってみたいって気持ちもあるし。」

かめ「単純な消費行動を歌は超えてきますよね。お金を超えてくる価値が発生したり。」

松井さん「ライブに参加すること自体が受け身じゃなくて、お客さんは。だって、たとえば昨日のゴールデン街で喋ったひとも、関西からゴールデン街に来てて、それで西興部に行こうとしてて、その熱量がすごくないっすか?だから歌がどうこうよりも、そうやって来てくれることの方が、胸を打たれるというか。ライブに来てくれるひとってそういうひとがいるから。」

かめ「そういうのがいいですよね。今回のインタビュー企画で田中馨さんにお話を伺ったんですけど、そのときに『ちゃんとふらふらする』って言ってたのがすごくいいなと思って。自分はどこにも根づきたくない性格だけど、だからこそ、いろんなところで受け入れてくれるひとたちに張り合いが持てるように生きていきたいって言ってましたね。その点、松井さんは去年ツアーでいろんなところに行かれてましたけど、どんな気持ちだったのかなと思って。」

松井さん「まぁ満喫はするつもりでいますよね。ツアーは観光とは違いますけど、地元のひとしか行かなそうなところとか、そういうところを見られると、うれしい。そのひとたちの生活が見えるような場所とか。まぁ時間も限られてるから難しくはあるけど。でも住んでみることを妄想するかも。こういう店があって、こういうところがあって、みたいな。」

かめ「いいですね。」

松井さん「だから生活のことを聞きたいのかもね。どういう娯楽があるか、とかね。」

かめ「ないっすね、娯楽、西興部には(笑)まぁでも長く住むとわかることってやっぱりあって、一見すると都会とまったく同じ生活スタイルなんだけど、長く暮らしてみるとやっぱり違うっていう。たとえば教育とか。もちろん使ってる教科書は同じだし教員の水準もたいして変わらないんだけど、それでも条件は都会とまったく違う。塾もないし、出会いもないし、遊べる場所もないし。そんなことを僕は東京から引っ越してきて1年ぐらいで思いましたね。」

松井さん「私は学童にバイトしに行ってますけど、こちらは人数が多いけど狭いっていうのがすごいストレスになってて。体育館とかグラウンドとか、小中高大まで一緒のところだからほとんど使える時間がないんすよ。それがみんなすごいケンカになってて。逆に興部の子たちは広く使えていいなって思ったりするけど、でも人数少ないと遊べる遊びも限られてるんだろうな、とか。」

かめ「いや、それはじつは逆転現象があって。都会の親は自然がないということをそもそも理解しているので、わざわざ週末にどっか連れてったりとかしますけど、ここの子どもたちは移動は車だし、冬は家のなかでぬくぬくしてるし、山は熊とかいるから籠ってるし……。けっきょくゲームばっかりですよ。逆に都会の子どもの方が自然を知ってるってことはありますね。」

松井さん「へぇ~。どうしたらいいんだろう。」

かめ「まぁかといって北海道は学力が高いわけではないし。でも西興部はハンターとかがすごく近くにいるから、そういうのは特殊な生活だと思いますね。」

松井さん「うーん。」

かめ「松井さんは土地に対する愛着は強いですか?」

松井さん「引っ越し好きだから、いろんな街に住みたいなっていう気持ちはめっちゃありますね。2,3年で引っ越すっていうのをずっとやってきましたね。」

かめ「それって、なぜなんですか?」

松井さん「なんか……、気分が変わるじゃないですか、住むところによって。新しいお店とかも行くようになるし。好きな飲み屋とかお店を見つけると、そこに歩いて帰れるところがいいなってなっていくから、そっちに引っ越すんだけど、でもそうなるとまた違うところも知ったりして。」

かめ「じゃあ飲み屋を開拓してるんですか?」

松井さん「いや、開拓はしてないかな。でも出会っていくといろいろ紹介されるから。」

かめ「なんかいいシステムですね。でも引っ越しってめっちゃめんどくさいじゃないですか(笑)」

松井さん「そう、だから荷物はめっちゃ少なくしてましたね、常に。物欲があんまないかもしれないですね。CDも3,4箱ぐらいかな。」

かめ「いま話していて、松井さんが生活を大事にしてるっていうのがすごく感じられたんですけど、逆に非日常のときはどうなんでしょう。たとえば、震災とかコロナとか。」

松井さん「やってることはあんま変わってなかったかもしれないですね。友達のところに飲みに行ってたりとか。まぁ震災のとき大阪にいたから直接的な被害がなかったってのもあるけど。」

かめ「生活を歌うときっていろんな攻め方がありますよね。個別の生活を取りあげるのもあるけど、その一方で誰でもに共通する生活を歌うやり方もある。それに生活っていうひとつの切り口でもいろんな生活がそれぞれにある。そういうとき、松井さんはどういうところにグッとくるのかなって気になりますね。」

松井さん「う~ん。なんだろう、難しいな。でも世間話的な話が好きだから。自分の歌も世間話っぽいなと思って(笑)まぁ身近のへんなことやってるひとたちの話を聞いて刺激をもらってるって感じですね。でもへんなことっていっても、それこそライブに来てくれるひとが年間400本ライブ行ってるとか、そういう話もすごい刺激になるし。ほかのひとが聞いたら他愛もないことなのかもしれないけど。」

かめ「いまとくにエンタメにおけるマイノリティの扱い方とかもそうですけど、強く配慮がなされているものが評価される傾向にある気がしますよね。」

松井さん「これはこういう曲なんだとかってわかりやすくね、テーマがあって、みたいな。」

かめ「でも松井さんの曲っていい意味で気が抜けてるというか(笑)」

松井さん「テーマとか問題意識を持って曲を書くのはできないなと自分では思ってます。でもこないだ戦争に行くおにいさんの小説を読んで、こういう歌も書きたいなって思うけど。でもべつにそれが誰かに何かを訴えかけたいわけじゃないなっていう。」

かめ「それはさっきの、いい曲ができたら聞いてほしいってところに戻る気がしますね。イベントでは新曲期待してます!」

松井さん「(笑)」

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